面白かった本10冊まとめ(2014年1月~6月まで)
毎年「今年読んで面白かった本」を10冊選んでブログに書いている。
今年読んで面白かった本10冊 - はてなの広告営業 mtakanoの日記(2010年)
シグナル&ノイズ
- 作者: ネイトシルバー
- 出版社/メーカー: 日経BP社
- 発売日: 2014/01/17
- メディア: Kindle版
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また、金融市場や温暖化、テロリズムにおいて、どうして予測が成り立ちづらいのか、なぜにノイズが除去しづらく、なぜ判断を誤ってしまうのかなどが語られる。
今はビッグデータという言葉がバズワードになっている(もう古くなった?)。しかし予測とは、ただいたずらにデータを集めるのではなく、シグナルとノイズを判断し、確率論の視点をもって世界と向き合うことが大事だ。
陰翳礼讃
冒頭を読み始めた時、老人の愚痴が語られているかのようで、ここで読むのをやめようかと思った。しかしそれを我慢して読み進めていくと、谷崎潤一郎ならではの、日本の美への鋭い視点が出てくる。そうするともう読むのを止められなくなる。
日本で発展してきた薄明かりの中の文化、その翳のなかでこそ映えるように作られた料理や器、厠、芸能その他色々なものがあったことに、この本を読むまでは気付かなかった。この本をよんだおかげで、自分が接してきた世界をまた新たな目で見ることができた。
一方で、軽妙なエッセイのつもりで書かれているところもあり、ずっと「来客が大嫌いだ」ということだけを言っているだけの作品も混じっていたりする。 そのあたりのユーモアも愛おしくなる。
知の逆転
- 作者: ジャレド・ダイアモンド,ノーム・チョムスキー,オリバー・サックス,マービン・ミンスキー,トム・レイトン,ジェームズ・ワトソン,吉成真由美
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2012/12/06
- メディア: 新書
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知の巨人達へのインタビュー集。あの著者はこんなことを言っていたのかと、要約して理解することができる(もちろん一部だけど)。話し言葉で平易に解説してくれるので、とてもわかりやすい。気になった著者の入門編としても良さそうだ。
そんなことを言いつつも、僕はジャレド・ダイヤモンドしか読んだことがない。でもその他の人たちの本も読んでみたくなった。知識を身につけると、世界の見え方が変わるのだ。
イノベーション・オブ・ライフ
イノベーション・オブ・ライフ ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ
- 作者: クレイトン・M・クリステンセン,ジェームズ・アルワース,カレン・ディロン,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: 翔泳社
- 発売日: 2012/12/07
- メディア: 単行本
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世の中には、ビジネスで成功するための自己啓発本、日々の仕事を効率的にするためのライフハック本がある。だが、大抵は一時の全能感に繋がるだけの、消費コンテンツのように思える。一方この本は、あのイノベーションシリーズのクレイトン・クリステンセンによる、ビジネス論ではなく、どうすれば幸せで充実した人生を送れるかについて語った本だ。そういう意味ではライフハック本ともいえる。だが、そこはクリステンセンだから一味違う。
今まで、ビジネスにおける脳みそは仕事モードの自分にだけ適用していて、プライベートでは別の脳みそに切り替えていた。でもそれはよくなかった。ビジネスでいかに成功していても、不幸な人生を送る人は多い。ビジネスもプライベートも、まとめて自分の人生の経営学として、同じように考えていく必要があったのだ。ビジネスで成功を求めて理論的に考えるように、プライベートでも同じく理論的に考えマネージしながら、幸せな人生を送ることが大事。そのことに気づかされるだけで、大きな収穫だった。
ファスト&スロー
ファスト&スロー(上) あなたの意思はどのように決まるか? (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: ダニエル・カーネマン,村井章子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2014/06/20
- メディア: 文庫
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この本は、直感的・感情的な思考をシステム1(速い思考)、意識的、論理的な思考をシステム2(遅い思考)と名付け、それぞれどんなタイミングで働き、作用し、ぶつかりあうかを解説しながら、意思決定の仕組みを解き明かそうする。
大抵、直感と呼ばれるシステム1が判断し、システム2は時間をかけて動く。システム2は怠け者で消耗するので、体調や精神状態、外部要因に左右されてしまう。
システム1には、プライミング効果、慣れ親しんだもの、因果関係の推定や発明、信じたことを裏付けようとする確証バイアス、感情的な印象で評価しようとするハロー効果、常時様々な事象をモニタリングしてカテゴライズしたり置き換えをしたり、質問を置き換えたりという特徴がある。
また判断のヒューリスティクスを紹介しながら、統計的な思考の難しさが語られる(ヒューリスティクスとは「困難な質問に対して、適切ではあるが往々にして不完全な答えを見つけるための簡単な手続き」)。小さな標本に騙されてしまうこと、アンカリング効果、身近な例を基準にしてしまう利用可能性、ステレオタイプな代表性が基準率を見逃してしまうこと、もっともらしさによる見誤り、統計より因果を優先させること、平均回帰の理解の難しさがある。
そして人間の思考には、自分が知っていることについて過剰な自信を持つという弱点があることが語られる。後知恵による修正、自分の評価は妥当だと信じてしまいがちなこと、直感は統計アルゴリズムに負ける事例が多々あることが語られる。ここまでが上巻。
下巻では2つの人種と2つの自己が語られる。2つの人種とは、理論の世界に住む、経済学に登場する合理的な存在のエコンと現実の世界に住む、行動経済学に登場する合理的ではない存在のヒューマン。2つの自己とは、現実を生きる「経験する自己」と記録をとり選択をする「記憶する自己」。
直感や計画の錯誤、楽観主義によって、大抵予測は外れる。この話は上巻の、システム1,2の続きだ。
そこから、従来の経済学よりも現実に則したプロスペクト理論が説明される。効用は参照点からの変化に影響され、さらに損失は利得より強く感じられる。保有効果や損失回避、単独評価と並列評価が不一致する選好の逆転などにより、人間はエコンのように合理的にはなれない。
また人間には記憶する自己を過大評価し、エンディングの記憶が幸福度の評価になりやすい。このように人の心理に従って正しく幸福の計測値を図ることは、政策などにも関わってくる。
アンカリング効果は値付だけの話ではない - 言いたいことがなにもない
世界文学を読みほどく
スタンダールの「パルムの僧院」を読んだことはあるが、どうしてもあの、恋愛だけが人生かのような展開が好きではなかった。全員恋愛体質なのかと。けれども僕にはわかっていなかった。スタンダールがどれだけ登場人物を愛して魅力的に書き、その結果、どれだけ祝福された小説になっていたのか。
そして同じように「アンナ・カレーニナ」で、トルストイはいかにして登場人物を神の視点から扱っていたのか。翻ってドストエフスキーは、どの視点で物語を書いたのか。「魔の山」は、当時のドイツから見たヨーロッパの縮図であり、EUに繋がって行く話だった。ガルシア=マルケスのマジックリアリズムにいかに世界は驚愕したのか。そして白鯨のディレクトリ制、フォークナーの小説の構成、ピンチョンの評価まで。なぜそのような視点で生まれたのかは、その小説が生まれた時代背景にリンクしている。
全編通して読むと、小説はいかに世界を捉えてきたかが見えてくるようになる。そしてそれは、私たちの世界の捉え方の変遷でもあるのだ。
経営学
本とは作者との対話であるとよく言うが、この本はまさしく人生の大先輩が語りかけてくれるような本。それは一人一人に向きあおうとする著者の姿勢によるのかもしれない。
この本で語られる内容は誠実で生々しい。クロネコヤマトの宅急便開発のストーリーを読みながら、新規事業の立ち上げ、商品開発、マーケティング、コストの考え方、労組との関係、財務から組織活性化まで、一通りの経営についてが学べる。
この本では、さらには行政との戦いまで語られる。このような経営者について行きたい、と思う人は多いだろう。お客さんと社員を思い、その理想に向けて妥協しない姿勢が心から尊敬できる。
名著と呼ばれる小倉昌男の経営学が面白かった - 言いたいことがなにもない
地図と領土
タイトルだけ読むと社会科学の本のようだけど、かなり重厚な純文学だ。久しぶりに文学を堪能する楽しさを味合わせてくれた。
アーティストである主人公の描く作品が、目の前にあるかのように豊かに描写される。それだけの筆力を備えている上で、実在する人物が登場したり、衒学的に細かな描写が合ったり、それによって明らかに物語であると分かっているのに、どこかでリアリティを感じさせてくれる。作者も作者として物語に登場し、とんでもない役割を果たす。とにかく世界観に圧倒された。この作者の他の本も読んでみたい。
神は死んだ
圧倒されるような世界観の連作短編集。
物語は神が一人の無力な黒人女性に姿を変え、難民キャンプに降り立ったところから始まる。その後、神は戦争に巻き込まれ、いとも簡単に死んでしまう。それによって変貌して行く世界が描かれる。
神の死が全米を駆け抜けた時にある街で何が起きたか、その後に荒廃した世界でお互いに銃を突きつけあって全てを終わらせようとする親友たち、神が死んだことで始まった児童崇拝を予防するための精神科医、田舎町の一コマ、神を食べた犬へのインタビュー、ポストモダン人類学軍と進化心理学軍が戦う世界の高校生と母親の対立、兄が殺人犯となった弟、戦争からの敗残兵が見た世界。
神が死んでも世界は続くのだ。でもその世界はどうなるのだろう?神が死んだ後の世界が恐ろしい想像力で描かれる。
子どもへのまなざし
とてもいい本だった。長年児童精神科医として働いてきた筆者が、子どもを持つ親や保育士さんに優しく語りかける本。育児におけるQAやノウハウではなく、育児に対する考え方を教えてくれる。
子どもの望んだことはできるだけ満たしてあげれば、人を信じられるように成長していく。それが全体のメッセージだ。子どもに対してどんな風に愛情を注げばいいのかを教えてくれる。
一部、ほぼ嘘と証明された狼少女の話をファクトとしていたり、昔の子育ては良かったという言論が見られてしまう。けれどもそれによって、この本が持つメッセージが損なわれることはない。そのメッセージには勇気づけられるし、暖かくてなんだか涙が出てくる本だった。