言いたいことがなにもない

プライベートな日記です

今年読んで面白かった本10冊(2013年)

毎年「今年読んで面白かった本」を10冊選んでブログに書いています。

今年読んで面白かった本10冊 - はてなの広告営業 mtakanoの日記 (2010年)

 

2010年からブクログをもとに記録してきたのですが、毎年こうして振り返られるのはいいものです。

mtakanoの本棚 (mtakano) - ブクログ

 

今年もブクログで星5つをつけたものを中心に、10冊選んでみました。

 

謎の独立国家ソマリランド 

 

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

 

 色んな人に読んでもらいたい、心からオススメの本です。

リアル北斗の拳とも言われる崩壊国家のソマリア共和国、その中にはなんと平和を維持する民主主義国家である独立国ソマリランドがあります。そんな国が存在し得るなんて!と驚きました。そして、ソマリランドだけでなく、海賊業で成り立っている隣国のプントランド、無政府状態のソマリアをも訪問する旅行記です。映画にもなったキャプテン・フィリップスで登場したのはプントランドです。

ですが、決して重々しいルポタージュではなく、大体向こうの合法ドラッグであるカートなんかを食べながら旅をしているので、戦闘地域のルポでさえもホワンとしています。インタビューも大体ソマリ人とのカート宴会の中で行っているくらい無頼です。けれどもその肩肘の張らない様子が、リアルなソマリ人を描いてくれているように思います。

そしてニュースでは見えない、ソマリアの実情も分かります。アルジャバーヴのような原理主義が勃興する理由も。外国からは見えない、氏族という関係によって読み解ける紛争でした。そしてソマリランドはその氏族をうまく活用することで、時代と実情に併せて民主主義を発展させており、日本や欧米よりも高度な面さえあります。ソマリアも含めですが、僕らのイメージとは違って、とても発展していたり豊かだったりする。ソマリランドに至っては誰も銃を携帯せず、銀行にさえ警備員もおらず、寝そべって金庫に足を置いている程度。これは僕には高度に平和な社会だと思えました。

この本を読むと、世界の紛争は下手に国連が介入しない方がいいのかもしれないとさえ思います。むしろ国連は、平和な地域であると認証をすることが、その地域に人が訪れ、潤っていき、周りの国が見習う、という循環が起きるのではないでしょうか。そのようなモデルケースとして、ソマリランドが国際化社会で正式に認められて欲しい。そして、このようなハイパー民主主義国家の存在が世界に周知され、影響を与えていって欲しいと願います。

 

風に吹かれて 

 

風に吹かれて

風に吹かれて

 

 ジブリのプロデューサー、鈴木敏夫の半生についてのインタビューです。

風立ちぬのラストの菜穂子のセリフが、最初は「来て」だったものに、後から「い」をつけて「生きて」になったエピソードが語られていると聞き購入しました。とても面白かったです。宮崎駿高畑勲はやはりくるっている(笑)。そのくるった天才たちのエピソードに爆笑する一方で、天才が流す血とそれを支援する鈴木敏夫の流す血の戦いのエピソードに戦慄させられます。ジブリをいかに収益化するか、組織として回っていくかという難題に立ち向かう、そういった意味でマネジメント論でさえあります。

この天才たちを支えて日本のアニメの歴史を作った鈴木敏夫も充分理性的にくるっています。本当に凄い人達です。

 

反哲学入門

反哲学入門 (新潮文庫)

反哲学入門 (新潮文庫)

 

 タイトルから、アンチ哲学!とうたった本に勘違いされそうですが、そうではなくとても平易かつ内容の濃い哲学解説書です。

こちらのブログで紹介されていて、気になって購入しました。

【書評】84歳の教授が哲学をざっくり体系的に語ってくれる本/「反哲学入門」 - マトリョーシカ的日常

この本が言わんとする反哲学とはニーチェ以降の哲学のことです。

プラトンに始まる西洋哲学は、キリスト教、神との折り合いをつけるために自然を無機的なものとして捉えてきた。ただしそれにより、近代は破滅的な状況に向かってしまったため、ニーチェが自然の考え方を捉え直し、以降にハイデッガーポストモダン構造主義が続いて今がある、というわけです。

そのために、この本は主要な西洋哲学についてしっかりと書かれており、結果哲学入門といって差し支えない内容です。

日本人には分かりづらい哲学や理性といった概念を分かりやすく伝えてくれます。とはいえ、後半に進むにつれて一読しただけでは理解が及びませんでした。。。逆に言えば、これから何度も読み返して挑んでいきたいと思える、いい本との出会いでした。

 

 イノベーションのDNA

 

イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)

イノベーションのDNA 破壊的イノベータの5つのスキル (Harvard Business School Press)

  • 作者: クレイトン・クリステンセン,ジェフリー・ダイアー,ハル・グレガーセン,櫻井祐子
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2012/01/18
  • メディア: 単行本
  • 購入: 13人 クリック: 196回
  • この商品を含むブログ (13件) を見る
 

 わかりやすくて面白かったです。もっと概念のように自己啓発的な内容かなと思っていましたが、調査結果に基づいた論理的な内容でした。

イノベーターが斬新なアイデアを思いつくのは、関連付ける力、質問力、観察力、ネットワーク力、実験力といったスキルが必要。全てが必要というわけではなく、それぞれ得意分野はあるものの、自覚的に訓練することで伸ばすことができるスキルである。そして、チームでイノベーションのDNAを育てていくにはどうすればいいか。そのような組織には、人材、プロセス、哲学が必要。

キャリア論であり、組織論であり、マネージメント術でもある、多くの示唆に富んだ本でした。

 

シャンタラム 

シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)

シャンタラム〈上〉 (新潮文庫)

 

 上中下巻のボリュームですが、一気読み必死です。これが実話をもとにしていることが衝撃です。スゴ本で紹介されていたのをきっかけに読み始めました。

徹夜小説「シャンタラム」: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる

オーストラリアの重刑務所から脱獄して、ボンベイへ逃亡した男が主人公。そこで体験したスラムでの生活、投獄、恋愛、友情、ゲリラへの参加などが語られます。

旅行記であり、冒険小説であり、私小説であり、哲学書のようでした。多くの登場人物、その全てに生き生きとしたドラマと哲学があります。時折見せるハードボイルドで詩的な描写もかっこいい。チャンドラーっぽい。


この本では、インドが持つ闇と温もりの両面が語られます。併せて、「女海賊プーラン」という本を読むとさらに面白いです。こちらも、あまりにも生々しいインドの闇が語られているため、インドという国のあらゆる意味での豊潤さを垣間見ることができます。

 

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

 

 村上春樹の本だなあ、と思う一方で、またこれまでとも違ってきたなとも思いました。これまでは、ストーリーの中で何かを失うことなり、それを取り戻す成長の話が多かったと思います。ですが、この話では、既に何かを失っていてそれを自覚している主人公が、その失ったものを埋める話でした。今までよりも少し大人だったように思います。壁と卵の、それは卵側の主人公がいつの間にか大きなものと対峙する、これまでの展開とも異なっています。もしくは、卵側の人間が大きなものと対峙をすることが、2013年ではメタファーにならなくなってしまったのでしょうか。

そんな小難しいことはまあいいとして、相変わらず面白かったです。

 

恋しくて 

恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES

恋しくて - TEN SELECTED LOVE STORIES

 

 とても面白いアンソロジーでした。肩の力が抜けたさりげない短編なのに、技巧が凝らされている作品ばかり。

甘酸っぱい話から苦い話、ミステリアスな話、ホモセクシャルな話、サスペンス映画のような話まで様々。でもどの短編も多面性があります。単なるロマンチックな恋愛のアンソロジーではなく、長く心に残るような話ばかりでした。

 

 

解錠師

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

解錠師 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 

 面白くて読むのを止められなくなりました。ストーリーは良くできたハリウッド映画のように、主人公の成長にあわせながら映像的に急展開していきます。幼い頃の事件によって一切言葉を話せなくなった、一方でアートと金庫破りの才能にめぐまれた主人公という造形がとても面白く、つい感情移入しながら読んでしまいます。

ミステリ、恋愛、ジュブナイル、アクション、いろんな要素が全て充分に収められた読み応えのある一級エンタテイメントでした。

 

ハーモニー 

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

 

 生命保持のために全てが統制された、平和な世界を舞台としていて、主人公は女性です。そのため、この作者のもう一つの代表作、虐殺器官で描かれた直接的なハードコアさとはまた違うものでした。一見平和であることの奥に恐ろしい物が描かれています。

各章のタイトルが全てナインインチネイルズの曲名(もしくはそのもじり)から取られているのも、この物語の性格を表しています。

「つながり」を大事にした現代の、一つの行き着く先が描かれているようです。SFはエンタメであると同時に、未来の考察でもあるということがよく分かります。

 

星を5つつけたものを毎年10冊書いているのですが、今年は9冊なので1冊足りません。ですので1冊追加します。

 

フロム・ヘル 

フロム・ヘル 上

フロム・ヘル 上

 

 僕はブクログではマンガの記録はつけないルールにしているので漏れてしまいましたが、今年一番衝撃的だった本は何かというと、これでした。

マンガとはいえ、文字量が半端ではありません。情報量がすごすぎて読むのに時間がかかります。「切り裂きジャックの正体は誰だったのか?」を、アメリカのグラフィック・ノベルの奇才、アラン・ムーアが書いたコミックです。

この本の凄さと衝撃を語る言葉が僕にはありません。読んでいる最中、何度も呆然としてしまいました。

 

今年はフロム・ヘルをきっかけに、アメコミにもハマってしまいました。来年は、久しぶりに純文学系の読書量も増やしたいなあと思います。