アンカリング効果は値付だけの話ではない
少し前にアンカリング効果について話す機会があった。その時に「アンカリング効果」で検索してみたところ、わかりやすいしビジネスに直結するからか、値付の話がたくさんヒットした。
アンカリング効果とは、提示された特定の数値や情報が印象に残って基準点(アンカー)となり、判断に影響を及ぼす心理傾向のこと。アンカリング効果は、顧客の購買行動に大きな影響を与えている要因のひとつである。
例えば、30,000円のコートがあった場合、通常であれば顧客は製品の品質や利用価値に注目して、価格に見合ったものかどうかを検討して購買行動を行う。ところが、「通常価格58,000円→特別価格30,000円」と表示することで、先に提示した通常価格58,000円という情報がアンカーとなり、30,000円という価格に対して「28,000円値引きされている」という判断がなされ、お買い得に感じられるといったことがある。
アンカリング効果 - マーケティングWiki ~マーケティング用語集~
このような例だけ見ていると、アンカリング効果とは価格付けのお得感を演出するための効果だ、と思ってしまうかもしれない。
しかし、人はもっと数字の印象に左右される。ファスト&スローを書いたダニエル・カーネマンの行った実験を要約すると、
被験者に0から100までの数字が書かれたルーレットを回してもらう。
このルーレットは、一つは必ず10か65に止まる仕掛けになっている。泊まった数値を見た後に次の質問をする。
その結果、「10」という数字が出た被験者らは平均25%がアフリカ諸国と答え、同様に「65」が出た被験者らは平均45%と答えた。
というものがある。
この実験にあるように、ルーレットなどの関わりのない数値にも人は左右されてしまうのだ。
冒頭にあった値付のマジックに左右されないようにするには、いかにアンカリング効果を無視して、自分が本来妥当だと思う金額を考える、相手が受け入れる最低の価格を予想する、交渉を辞めた時(止めようとした時)に相手がどう行動するかを考える、などがあるだろう。まあネットで買物をするときには、一度型番で検索してみるとか、実店舗に行くとか、他の販売例を探すくらいで回避できるだろう。
けれども、ダニエル・カーネマンの実験を見ると、アンカリング効果は値付の話にとどまらない。
アンカリング効果には、論理的に判断される調整を伴うものと、直感的に判断されるプライミングによるものの2種類のメカニズムが働くと言われている。アンカーを起点に多すぎるか少なすぎるかを評価し、妥当な数値に近づけていくことが調整で、アンカーとなる数字がありえないものでも、それによって暗示を受けてしまうことがプライミングということらしい。
このような暗示が発生すると考えると、自分が判断しているつもりでも、結果外部要因に判断が左右されていることが、どれだけあるかはわからない。人間の脳は複雑なのだろう。
とにかく自分が思うほど理性的で合理的ではないことを、普段から肝に銘じておくしかないのかもしれない。
ファスト&スロー (上): あなたの意思はどのように決まるか?
- 作者: ダニエル・カーネマン,友野典男(解説),村井章子
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ダニエル・カーネマンの本ではないが、これらの本も人間の脳がどれだけ合理的ではないかを教えてくれる。これらの本は、色々なケースで引用されていることが多い。
予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
- 作者: ダンアリエリー,Dan Ariely,熊谷淳子
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- 作者: ロバート・B・チャルディーニ,社会行動研究会
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