言いたいことがなにもない

プライベートな日記です

今週読んだ本

 今週はこれらの本を読んだ。 

 文芸批評では取り上げられることのない、新井素子法月綸太郎押井守小松左京の4名の作家から、閉塞したセカイ系、その困難な問題をどう突破しようとしたか(無意識にどのように突破してようとしていたか)が語られる。法月綸太郎の本はほとんど読んでいたのと、押井守の主要な映画は見ていたが、その他2名の作家はあまり読んでいない。それでもとても分かりやすく読める。

法月綸太郎は、正統派本格ミステリであるようでいて、変格でもある。一時期までは主人公がよく悩んでおり、そこに共感していた(あんまり悩まなくなった近作は、作品としてのパワーも落ちてきたように思える)。さらに、一般的に語られるのは彼の家族の問題であったり、後期クイーン問題だ。だが、セカイ系と恋愛の問題として読み解くことができるとは全く思わなかった。

 

シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」

シグナル&ノイズ 天才データアナリストの「予測学」

 

今話題の本。分厚かったし、全てを細かく読み込んだわけではないが、とても面白かった。作者は、できるだけ精度の高い予測を行うために、シグナルを見つけ、ノイズを除去することを訴える。

前半では野球、天気予報、地震、経済、インフルエンザの世界で行われている予測の実例が書かれている。それぞれの分野で予測の精度がどれだけ発達し、そしてどれだけ困難であるかが分かる。その後、ベイズ統計を元に、確率論的に予測を行っていく、チェスコンピュータ、ポーカーの実例を挙げる。また、金融市場や温暖化、テロリズムにおいて、どうして予測が成り立ちづらいのか、ノイズが除去しづらいのか、判断を誤ってしまうのかなどが語られる。

今はビッグデータという言葉がバズワードになっている。しかしただいたづらにデータを集めるのではなく、シグナルとノイズを判断し、確率論の視点をもって世界と向き合うことの重要性が学べる。

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

時砂の王 (ハヤカワ文庫JA)

 

時間SF。そこまで分厚いわけでもないのに、密度が非常に濃い。26世紀のメッセンジャーと呼ばれる男と、邪馬台国の卑弥呼の話が交互に語られる構成。全く無駄がない。

陰翳礼讃 (中公文庫)

陰翳礼讃 (中公文庫)

 

最初は、昔の老人の愚痴のようで、読むのをやめようかとさえ思った。しかし読み進めていくと、谷崎潤一郎ならではの、日本の美への鋭い視点が出てくる。この本を読まなければ、灯りのない文化として発展してきた日本、その翳のなかでこそ映える料理や器、厠、芸能その他色々なものがあったことに気付かなかった。自分が接してきた世界がまた新たな目で見える。

一方で、軽妙なエッセイのつもりで書かれているものもあり、ずっと「来客が大嫌いだ」ということだけを言っているだけの作品も混じっていたりする。そのあたりのくだらないところも、また良かった。

 

全部面白かった。シグナル&ノイズ、陰翳礼讃は、世界の見え方が変わる。特に陰翳礼讃は、その感想だけでブログが書きたいと思うくらい、これまでの自分の体験、出会った風景、心情が想起される、素晴らしい読書体験だった。

 

その他、観た映画は

の4本。