言いたいことがなにもない

プライベートな日記です

ハードコアで荒涼として無常観の溢れるオススメの小説

大学時代の友人で、しばらく前に会社を辞めて海外を旅している彼から、面白い小説はないかと言われた。今は一旦日本に帰ってきて、一日四冊ペースで読んでいるとのこと。
海外に行っていたら、やたらと日本語が吸収したくなったらしい。相変わらず過剰な奴だ。最高だ。

随分前に「犬の力」という小説を貸したところ、いたく気に入ってくれたらしい。シチュエーション的にも精神的にも、ハードコアで無常観溢れるような小説が望みなのではと思い、オススメのものを幾つか考えてみた。既に読んでいるものもあるかもしれない。

1984年


強烈なSFディストピア。大戦争の果てに超管理社会となった国家で生きる人間の話。社会のルールからはみ出して反政府活動に加わってしまった主人公とその恋人の辿る結末が身に迫る。SFというのは決して荒唐無稽ではない。フィクションとは言い切れない、現実にもこんな国家は存在し得るだろう。1948年に書かれていたとはとても思えない。今読んでもあまりにリアルすぎて切迫感がある。
日本だって箍が外れれば、こんなディストピアになることは充分にあり得るのではないか。

映画で言えばリベリオンなりマトリックスなり、この小説が後世に残した影響は計り知れないと思う。

悪童日記


戦争によって無政府状態になった国で生きる双子の話。生きていくために、感情を無くす訓練を行い、悲しい超人のようになってしまう。感情を排した文体が、双子の独白のようでとても悲しい。そしてそれが、読んでいて緊張を強いられるのだ。

作者のアゴタ・クリストフの実体験が元になっており、戦争と人間の恐ろしさを感じられる。三部作なんだけど、この最初の作品である悪童日記以降は明らかにトーンダウンしてしまうあたり、逆に初期衝動の塊のような作品だと思う。

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)

悪童日記 (ハヤカワepi文庫)


血と暴力の国


コーマック・マッカーシーも文体に特徴がある。日本語訳でもそれは明らかで、2,3ページ読んでみて、この淡々とした文体が好みなら、マッカーシーを読んでも損はしないはず。

人智を超えたカリスマ的な悪役、シュガーという殺し屋が登場するのだけど、まさしく悪魔。。生殺与奪の権利を持ち、絶対的に無敵で、あとひたすら奇妙な武器で人を殺すのだ。この殺し屋に追い詰められていく男と、事件を追う老刑事の三者を起点に話は進む。
老刑事の行動と言葉から、アメリカへの絶望が滲み出る。

ノー・カントリーというタイトルで映画化もされているが、これも最高だった。ジョーカーかシュガーか、というくらい悪役としての強烈な存在感がある。

マッカーシーはどれもハードコアで、開拓時代のアメリカであればブラッド・メリディアン、大戦争が起きて破滅した後の世界であればザ・ロードがすごい。どれも徹底的に荒涼とした世界が描かれている。

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)


神は死んだ


冒頭の短編で、戦争の地に降り立った神がゴミのように殺されるところから始まる連作短編集。神を失った世界で、人はどのように生きるのか。神を失うことで、実質的に世界は変わらない。ただ人の心が変わる。今生きている世界が、神をゴミのように扱ってしまうくらい絶望的な世界だと認識した時の気分はどうなんだ。

神は死んだ (エクス・リブリス)

神は死んだ (エクス・リブリス)


虐殺器官


911のテロを経て生まれたSF。そして、ITとWEBの進化を、いち早く高次元に文体に反映させた小説だったと思う。人間を大量に殺戮する虐殺器官とは何なのか。
衒学的にすることで一つの世界観が構築されている。そのために、色々と展開的に甘いところもあるかもしれないが、勢いを感じる。この後に書かれた「ハーモニー」の方が世界観の緻密さや描写のクオリティは高いと思うけど、こちらの方が初期衝動を感じる。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)


その他、小説ではないんだけど興味を持ってもらえそうなエッセイやノンフィクションなども思いついたので書いておく。


悪について


悪の概念ではなく、悪をなす人の性質を心理学の観点で分類した本。ナチスを例にして読み解いていくところに、時代性と強い意志を感じる。きっと好きなのではないか。

悪について

悪について


日本語が亡びるとき


一時代を築いた奇跡のような美しい文体をもった明治近代小説。英語がスタンダードとなることで、やがて日本語はマイナーな言語となり、美しい日本語で書かれた近代小説は忘れ去られていくだろう。海外で生きていくからこそ、面白く読めるのではと思った。

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で


絶対貧困


世界の貧困地域を旅した筆者が生々しく描いた貧困の姿。どうしようもなく絶望的な側面も描かれるが、貧困の中でも人は楽しく明るく生きており、その様子も描いている。どんな風にお金を稼いでいるのか、何を食べるのか、どんな風に恋愛をしているのか。

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)

どうぞご参考下さい。