野菜のソムリエがいる下北沢の隠れ家レストラン
数年前に下北沢に住んでいた。引越し当日かその翌日くらいに、引越しを手伝ってくれた女性、それは今の奥さんなのだけれど、彼女へのお礼をご馳走するために尋ねたレストランがある。
今思い返せば、この店を尋ねたことがきっかけで、しっかりと手をかけて作られた料理への意識が生まれた気がする。
引越しの片付けも落ち着き、ネットで色々調べていると、野菜のソムリエがいる店がという文字が目に入り、これは奥さんも喜びそうな店だと予約の電話をした。
今思えば、いざ土日の当日に電話をして入れたのは奇跡に近い。もしかしたらオープンしてからそれほど間も無く、この店もまだあまり知られていなかったのかもしれない。
その店は下北沢北口のひっそりとした路地裏にあり、レンガ調の階段を上った二階にある。ドアを開けると10名も入ればいっぱいになるこじんまりとした屋根裏のようなお店で、店員はシェフとウェイトレスの男女2人だけ。端から端まで全てに目を届く距離感だ。少し暗めの橙の灯りの中で、テーブルの上に飾られた花も細やかでこだわりが見られた。
当然ながら、料理も全てに気が配られていた。まず、野菜のソムリエって大袈裟じゃんと正直疑っていたような僕に、野菜というのはこんなにも美味しいのか!と気づかせてくれた。30にもなって、味の濃い料理さえ食べていれば美味しいみたいな価値観の人間に、美味しい野菜とは何かを教えてくれた。美味しい野菜はみずみずしく、歯ごたえがよくて独特の爽やかな甘みがある。
そして、その素材の良さを調理によってさらに掛け合わせてレベルアップさせてくれる。口に運ぶほど、身体中に新鮮さが行き渡る感覚があった。そして野菜が主役ながらも、パンからコーヒー、肉や魚まで、全てにこだわりがあった。
帰る時にはシェフが外まで見送ってくれた。実は「野菜のソムリエがいるレストランなんて最近流行りのエコやらロハスに飛びついた店だろ」なんて内心で馬鹿にしていたことを心の中で謝りながら帰った。
それから何回か、奥さんや友人をもてなす時に連れて行ったりした。
僕は牛丼でもカップラーメンでも全然満足して食べられる。でもこういった職人が修行の成果として魂を込めて作った料理を食べると、美味しいだけでなく身が引き締まる。行こうとしたら、シェフが料理の修行に出掛けてしばらく閉店していたなんてこともあった。
大切な人たちが、美味しい料理を食べて笑顔を見せてくれた瞬間というのは強く記憶に残っている。このようなお店は高いけれど、思い出を買うには安いものだ。もう数年間訪問していないので、その味も見た目もぼんやりとした記憶になってしまったが、みんなが喜んでくれた感覚は覚えている。
今は下北沢も離れ、子供も生まれたので、再訪はなかなか叶わない。これだけ時が経てば、僕が記憶する姿とは違ったものになっているかもしれない。でもいつかまた行きたいと、ずっと思っている。
「行ってみたいお店・レストラン」by みんなのごはん
この半年読んで面白かった本10冊まとめ(2015年7~12月まで)
毎年「今年読んで面白かった本」を10冊選んでブログに書いている。去年からは半年に一回まとめるようになった。
今年読んで面白かった本10冊 - はてなの広告営業 mtakanoの日記(2010年)
今年読んだ本のマイベスト10 - はてなの広告営業 mtakanoの日記(2011年)
今年読んで面白かった本10冊(2012年) - はてなの広告営業 mtakanoの日記
今年読んで面白かった本10冊(2013年) - 言いたいことがなにもない
面白かった本10冊まとめ(2014年1月~6月まで) - 言いたいことがなにもない
面白かった本10冊まとめ(2014年7月~12月まで) - 言いたいことがなにもない
この半年読んで面白かった本10冊まとめ(2015年6月まで) - 言いたいことがなにもない
この半年も、色んな面白い本に出会えた。中でもうち10冊をまとめてみる。しかし、なんでこんなに微妙にタイトルを変更しているのだろう。。
学力の経済学
このように、学術的に相関関係が成り立つ教育施策が紹介されている事例を読むと、いかに日本の教育が統計や論理に基づいていないのかと思う。子育てや教育は、誰もがそれに関わってきたものだから、誰もが専門家になり、感情的で直感的で、さらには伝統に沿った思考停止な判断がなされてしまう。この本ではそれについての警鐘が鳴らされる。
ただ、読めば読むほど、では自分の子供をどうするか?を考えると、一言で言えば子供の勉強にしっかりと時間とお金を費やしてあげる、という結論になるのがやるせない。まあそれはしょうがない、そのために日々頑張るしかないよな…。一方で子供の貧困という現状を知るほど、未来に絶望的にもなる。
他の幼児教育の本にも書いてあったが、子どもの学力においては非認知的スキルを身につけることが大事、という説もトレンドになっている。しっかり子供に目を向けて、1日1日を大切に過ごしていきたい。
愉楽
中国から生まれた発禁?相当のマジックリアリズム小説。実際に発禁になったのかな。
前半はその長さに挫折しそうになるが、後半は一気読みだった。障害者たちだけで暮らす村にもたらされた共産主義と政府の手によって、村の平和を破壊されていく様が、寓話的に中国のある側面を暴いてみせる。障害者による絶技団、レーニンの遺体の購入による再建計画、完全人の嫉妬と模倣、一人の優れた美貌を持つ娘の妖艶さ、お金による人の変貌など、この小説の中にあまりにも多くのメタファーが込められている。正しく小説によって構築された一つの世界。
作者のあとがきで、書くことは苦痛でしかないがどうしても書かずにいられない、という業が告白されているが、それもうなづけるくらい、作者の血が流れている本だった。
ワーク・ルールズ!
日本語訳を待ちに待っていたGoogleの人事についての本。ちょうどたくさん面接をしていた時期だったということもあり、とてもためになった。
仕事に意味をもたせる、人を信用する、自分よりも優秀な人だけを採用する、発展的な対話とパフォーマンスよマネジメントを混同しない、二本のテールに注目する、カネを使うべき時は惜しみなく使う、報酬は不公平に払う、ナッジ、高まる期待をマネジメントする、そして楽しむこと。どうやって採用面談に望むか、面接の質問の仕方、みんなで教えあうこと、業績評価、報酬やインセンティブ、ナッジによる示唆など。
これらはなにもGoogle独自の施策ではない。しかしGoogleが何よりもすごいのがトライアンドエラーとABテストを繰り返し、統計的に改善を試みていることだ。そしてGoogleのミッションを信じていること。人事や採用の考え方だけでなく、マネジメントにおいても勉強になった。
悪霊
自分の一番好きな小説。今までに繰り返し読んできたが、今回読んだのは5年ぶりだった。自分が歳をとったからなのか、亀山さんの訳が分かりやすいのか、これまで何度も読んできた本のはずなのに、新たな気づきも多く、世界も広く感じられた。
世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられている仕事の基本
GEで教えられている仕事の基本について。仕事の基本とはいえ、GEの人々なので、語られる目線はマネジメント、経営層向けくらいに濃い教育内容。この本から得たものはいくつもあるが、最も大きかったのは、自分の仕事におけるキーワードを3つ書き出すというもの。うち1つは「貢献」で、これまで考えてきたことが腑に落ちて、そしてこれからやっていきたい方向性が定まってきた。
世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられている仕事の基本 (角川書店単行本)
- 作者: 田口力
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
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ニッポンの貧困 必要なのは「慈善」より「投資」
そもそも格差というものは生まれてしまうものであるが、貧困は根絶しなければいけないものだ。全てはその前提によって語られなければいけない。なぜか自己責任がまかり通ってしまうが、これを経済の観点でとらえたとしても、貧困問題にかかっているコストが解消され、その上労働力が増えて税収が増すことから考えても当たり前だ。
この考え方が日経ビジネスで語られたことに意味がある。貧困に同情的な視点に偏って書かれるのではなく、徹底してジャーナリスティックに貧困の現状を見つめた姿勢がすごい。貴重な本。
人工知能は人間を超えるか
とにかく分かりやすい。コンピュータが知能を持つ上でこれまでできたこと、できなかったこと、限界だったことがまず整理される。それからディープラーニングによってコンピュータが概念を学べたことがどれだけ大きな進化だったのか。そして、日本は改めて人工知能に力を入れるべきと提言される。僕のような非エンジニアにもディープラーニングとは何か、そして人工知能の現状が大まかにわかる凄い本。
チェルノブイリの祈り
めくった二、三ページですでに圧倒された。チェルノブイリを経験した人たちへのインタビュー集と言ってしまうと一言で済む。しかし、まず一人一人の言葉が重い上に、これらの人からコメントを引き出し、このように一冊にまとめた手腕がすごい。圧倒される本だった。ただインタビューをまとめた退屈な本ではなく、全ての人に全く違った物語と語り口がある。あまりにも悲しすぎる。
チェルノブイリの恐ろしさについて、全く分かっていなかった。しみじみとその悲劇がどれだけ凄まじいものだったのか伝わってくる。
Wonder
絶対泣くだろう、泣かせにくるだろうと思わせるシチュエーションと登場人物。顔に重度の障害をもって生まれてきた子供が初めて学校に入学し、成長する物語。
この世にある悪意、差別が突きつけられるけれど、決してそれだけでなく優しさや善意も溢れていることを教えてくれる。単なるいい話ではなく、正直さ、真摯さがあった。
新カラマーゾフの兄弟
あの亀山郁夫さんが書かれたのだから、カラマーゾフの兄弟の続編かな、と思ったけどそうではなかった。1995年という阪神大震災とオウムに激震が走った年の日本を舞台に変え、カラマーゾフの兄弟のオマージュとして登場人物もストーリーも重なりながら進んでいく。どこかカラマーゾフの兄弟というより、シンボル的に現れるアイテムだったり、登場人物の精神的な旅の様子が村上春樹のようだ。
最初はなんだかカラマーゾフの兄弟の同人誌みたいだ、と正直気恥ずかしく読んだ。だが読み進めるうちに、これはオマージュであり、リライトであり、ドストエフスキー論であり、カラマーゾフの兄弟の講義であり、亀山さんの自伝であり、アバンギャルドな実験小説だと気づかされる。下巻くらいからは物語に引き込まれた。
読んでいるうちに、カラマーゾフの兄弟自体への理解が深まった気がした。
今年はビジネス書だけでなく、小説をしっかり読もうとし始めていた期間だった気がする。あとは、子供の教育、子供の貧困問題を結構読み続けている。この問題について何かできないかなあと思っている。
文章の力に圧倒された記事 ハイパーリンクチャレンジ2015 #HyperlinkChallenge2015 #孫まで届け
先般よりハイパーリンクチャレンジという各自が今年一番面白かった記事を紹介するという取り組みが開催しており、これに様々な有名ブロガーさんが参加されている様子からよしこのハッシュタグを追っておもしろいブロガーさんを見つけて楽しもうと高みの見物をキメていたらサイボウズ藤村さんからメンションが飛んできてしまった、全く関係ないけど藤村さんは先日僕らが開いた方の飲み会に来られませんでしたよ。
2015年に印象に残る、文章力で圧倒された記事
自分が書いた、印象に残っている記事
次にハイパーリンクチャレンジをまわしたい人
FIXされていた人生のこと
何もしていない三連休
マイケル・ジャクソン THIS IS IT(特製ブックレット付き) [Blu-ray]
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肩の力を緩めてもらえるように
『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』を読んだ
藤代さんがゼミ生と一緒に本を作られた、とFacebookでシェアされていて、「風の人」というのはなんのことかわからなかったけど、藤代さんが関わられているのなら読んでみようかと軽い気持ちで手に取った。
というわけで、実は最初は本の内容を全く知らなかったのだが、読み始めるとこれがとても面白い。
藤代ゼミ生が島根の「風の人」たち8名にインタビューをしていく本だ。だが「風の人」とはなんだろう?「はじめに」を読んですぐに腑に落ちた。
彼、彼女たちは、地域に新しい視点をもたらす「風の人」ともいえる存在なのです。地方と都会をまたいで活動し、風を運び、風を起こし、去っていく。
「風土」という言葉もあるように、地域には「土の人」と「風の人」がいる、と言われます。土の人とは、その土地に根付いて、受け継いでゆく人のことです。土の人はもちろん地域を支える大切で欠かせない存在ですが、土の人ばかりでは、どうしても、新しい発想や視点が生まれにくい面があります。
一方、風の人は、一カ所に「定住」せず、わずかな期間で他の地域に移動することも少なくありません。異質なものや考えを運んでくることは、あつれきを生む原因にもなります。理解されずに、誤解されたり、無責任だと批判されたりすることも珍しくありません。
地方で働くといえば、Iターン、Uターンで定住するしかないと思っていた。そうするとどうしても地方が持つしがらみやコミュニティ、高齢化や仕事が見つかりづらいことが懸念だった。だが、これまで「風の人」という働き方、生き方は想像したこともなかった。
過疎化で廃校寸前の高校を再生するために、学力も人間力も身につけられるようなカリキュラムや、島留学などの仕組みを作ったりすることで全国から希望者が集まる高校に変えた元ソニーの方。
専門にこだわらず、総合医として離島医療に従事し、それでも無理せず趣味の時間も持てるよう「総合医の複数性」という仕組みを作って、ヨットやランボルギーニに乗ったりしてプライベートもちゃんと楽しんでいるお医者さん。
このような、風の人として、自由に楽しみながら地方のために仕事をする人達のインタビューが収録されている。
そして学生がインタビューしているからだろうか、堅苦しさがなく、等身大で親しみやすいその人たちのありのままの姿が見えた気がする。
それは例えば言葉遣いにも現れていて「100パーないです」「よく分かんねーって思って」「カッコイイじゃん」といった発言も多く、これが真面目に取材したメディアならキレイな言葉に置き換えられてしまうかもしれない。
でもこういった等身大の言葉が、「何も僕らとは違うスーパーマン、スーパーウーマンだからできたことではないんだ」と思わせてくれる。
もちろん、インタビューの中では、時として地方に受け入れられるまでの苦労もにじみでている。
僕も生まれ育った山梨でこの本の事例に出てくる方たちに出会ったら「うさんくさい余所者がきた、どうせすぐにどこかに行ってしまうくせに」なんて思ってしまうだろう。信頼を勝ち取るまで、たくさん乗り越えなければならないこともあったはず。相当な努力を積み重ねてこられたのではないか。
でも苦しいことは、東京で働いていたってあるのだ。自分が自由に働くためには東京で頑張るしかないんじゃないかと思っていたけど、それは非常に狭い視座だった。
少し前から「地方創生」という言葉をよく聞く。でも山梨に帰ってどんどんと広がっていくシャッター商店街を見るたびに、これを止める方法なんてないし、せいぜいインチキなコンサルタントが適当なお金の使い方をしてるだけだろ、という絶望的な気分になってた。でもそれも視野が狭かった。まだまだ地方は盛り上がっているし、もっと盛り上げていくのはこれからの行動次第だろう。
最近、自分の働き方を考える上で「貢献」がテーマになってきた。その観点でも「こんな生き方があるのか!」と気付かせてくれた。
新しい視点に出会えることは、本を読む楽しみの一つだ。この本は、希望を持って楽しく働いていくための生き方はたくさんあることに気づかせてくれた。